ソプラノ・アウトリーチ専門演奏家・声楽講師の永井友梨佳です♩
ネオクラシカルな日本のうたの曲解説シリーズ。
今回の曲は、上田知華作曲・一倉宏作詞の「日々の嬉しさ」です。
歌曲集「枕草子」の4曲目となります。
作曲の上田知華さんって？
上田知華（うえだ ちか、1957年6月10日 – ）
東京音楽大学在学中に作曲家・樋口康雄に出会い、同氏プロデュースにより上田知華のピアノと歌+弦楽四重奏の編成で上田知華+KARYOBINを結成。クラシックとポップスを融合させた斬新なスタイルで、1978年8月にシングル「メヌエット」でデビューする。
1980年に発売されたシングル「パープル・モンスーン」がCMソングに起用され、認知度を高める。
80年代以降は作曲家として活動し、松田聖子、中森明菜、中山美穂、南野陽子、薬師丸ひろ子等、多くの女性シンガーの楽曲を手がける。その数は300曲以上に及び、特に今井美樹には数多くの楽曲を提供、中でも「PIECE OF MY WISH」はミリオンセラーを記録する。
Bio | uedachikaより抜粋
ルーツはクラシックでありながら、ポップスの世界でも長く活躍されています。
また、ご自身がシンガーソングライターとして活躍もしつつ、
作曲家としてもかなり多くの楽曲提供をされています。
今井美樹さんが歌われた曲はミリオンセラーにもなっているんですよね。すごい…！
作詞の一倉宏さんって？
一倉宏
コピーライター、クリエイティブ、ディレクター
1955年2月14日、群馬県渋川市生まれ。
高校時代には詩を書き、投稿したり、ガリ版刷りの詩集をつくったり。
1978年、筑波大学第1学部卒業。同年、サントリー株式会社に入社。
1987年、仲畑広告製作所に移籍する。
1990年、独立し、赤坂に事務所を設立。
2003年、事務所を同じ赤坂の現在地に移設した。
一倉広告制作所 ｜ profile ｜ 一倉 宏 (1-kura.com)より抜粋
CMでおなじみの
「きれいなおねえさんは、好きですか」
「うまいんだな、これが」
「あなたとコンビに」
「家に帰れば、積水ハウス」
これらはすべて一倉さんのコピーなのだそう！すごいですよね…
他にも、斉藤和義さんの「ウエディング・ソング」や
信長貴富さんの合唱曲「こころよ うたえ」の作詞もされています。
「日々の嬉しさ」の歌詞
では、歌詞をみてみましょう。
日々の嬉しさ
第257段「うれしきもの」より
日々に… 夢中で読める
本のつづきの 嬉しきこと
怖い夢みて 胸騒ぐに
慰めるひと いること
ある日… 憧れの方を
囲み語らう 視線感じて
病のひとに こころ懸かるを
癒せしという 便りも
また 仲のよき 友だちの ひとに褒めらる
その 我がことのごとき 心嬉しさ
紙は… みちのくの紙
新しき紙 嬉しきもの
ひとに訊かれて 教える歌
探しもの ふと 見つけし…
そう 貝合わせ絵合わせなどの 遊びして
衣の… 仕上げきよらに
挿し櫛つくり 届くときも
日ごろ月ごろ 悩みわたるが
いつかは晴れし 嬉しさ
ちいさな日々の 嬉しさ
詩・一倉宏
あふれ出すままに書く、おもしろさ
この歌曲集は、
清少納言の「枕草子」を、作詞の一倉さんが現代語訳したものなんです。
以前、「私の好きな月」という曲も紹介しました。
[blogcard url=”https://www.yurikanagai.com/2021/03/12/my-favorite-seasons/”]
今回訳されているのは、枕草子の第257段「うれしきもの」
清少納言が、嬉しく思うものごとを並べて書いています。
読書の楽しさ、怖い夢を慰めてくれる人がいること。
病気の人が治ったという知らせ。
人間関係や趣味のことだけではなく、
紙のこだわりや、服が仕上がったとき、アクセサリー（挿し櫛）が届いたとき、
など、日々のちょっとした幸せも描かれていてとても楽しい。
この詩について、作詞の一倉さんはこのように語っておられます。
清少納言は思いつくままに『枕草子』を書いたでしょう。あふれ出すままに。
好きなもの、お気に入りのものなど「名詞」を列挙したり。もう一方では、具体的なエピソードとして、こんなことがあった、こんなことも思う、と語ったりします。のびのびと開放的な性格が、その文体にも表れています。
CUE Entertainment 「歌曲集 枕草子 楽譜集」p.67より引用
たしかに、名詞を列挙していたと思えばいきなりエピソードが出てきたりして
その唐突さがとてもおもしろいし、楽しいですよね。
（ちなみに、原作もこの詩とほぼ変わらない順序で書かれています）
ものごとのジャンルや順序に捉われずに、
「あ、これも嬉しい、あれも嬉しい！」と思いつくままに書いている様子が浮かんできます。
清少納言の、そののびのびとした感じがすごく素敵です。
また、最後のフレーズもとても素敵。
日ごろ月ごろ 悩みわたるが
いつかは晴れし 嬉しさ
ちいさな日々の 嬉しさ
平安時代の人も、今の私たちと同じように悩んだりするんだ！と
当たり前のことだけど気づかされます。なんだか、とても近く感じますよね。
小さな幸せをやさしく包み込む音楽
この詩に上田知華さんがつけた曲は、シンプルであたたかい音楽。
この歌曲集は、
「ポップスとクラシックの垣根を越えて日本語の『歌』をつくりたい」ということで
制作されたものなんですよね。
清少納言が語っているのは、日々のなかの小さな幸せ。
音楽は、その幸せをやさしく包み込むように、ピアノのアルペジオで始まります。
途中、転調しながら盛り上がっていくのですが、
心の中の嬉しさが、ぶわっと膨らんでいく感じが見事に表現されています。
小さなことでも、嬉しいことがあると心がときめきますよね。あの感じです。
小さな幸せに「気づく力」
作曲の上田さんは、
今回あらためて「枕草子」を読んで、清少納言という人は、とても明るくてポジティブな女性だったのではないかと感じました。
CUE Entertainment 「歌曲集 枕草子 楽譜集」p.67より引用
と語られています。
小さな幸せに気づく力って大切ですよね。
このご時世、ステイホームだったり、あまり遠出をできなくなったりする中で
清少納言みたいに「身の回りの小さな幸せをみつけれる人」が強いのかな、と思いました。
毎日同じようなことの繰り返しであっても、
日々の中でちょっとした変化や、ちょっとしたモノにときめく力。
清少納言のような感性をもって、日々過ごしてみると楽しくなりそうです。
おわりに
歌曲集「枕草子」から、２曲目の紹介でした。
本当に素敵な歌曲集なので、他の曲も少しづつ紹介していこうと思います。
また、先日紹介したカウンターテナー中嶋俊晴さんのＣＤに
今回紹介した「日々の嬉しさ」も入っているんです。
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CDのダイジェスト動画はこちら↓
すごく素敵な演奏です。ぜひ聴いてみてください(*^^)
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